健康ファミリー 2002年7月号掲載
●日本の食文化を見直すこと
テレビの「大食い」放送については、小誌もたびたび警鐘を鳴らしてきました。1月15日には、お茶どころで知られる愛知県西尾市三条の市立第一中学校(吉田優校長・生徒数849人)の3年生の男子生徒の1人が、パンの早食い競争をして、のどに詰まらせて病院に運ばれ、4月24日に死亡したと報じられました。(各紙)一緒に早食い競争をした2人の生徒は、「テレビ番組を見てまねた」と話しているといいます。
どのテレビ局だったか忘れましたが、大食い企画のディレクターの姿を見ましたが、なるほど大食い、早食いの企画を出すだけあって巨漢でしたから驚きました。しかし大食いは巨漢が成功するのかと思っていたら、成功するのは男女ともスリムなタイプです。大食い番組は各局とも高い視聴率がとれるところから、番組をまねて1人や2人死んだからといって、番組を中止する方向にはありません。(本誌印刷の最終日5月24日の朝日新聞はテレビ東京の早食い放送中止を伝えました。)
一方で「スローフード」なる言葉が急浮上しています。10年ほど前にイタリアの小さな町で、伝統の食文化を見直すことから「食事」はゆっくり楽しんで食べるというもの。つまり「スローフード」運動というわけで、日本にも上陸し日本人の食生活のあり方を見直そうと、日本式スローフードが提唱されています。
その地域に根ざした食文化を見直すとは、工場で大量生産された加工食品をテレビコマーシャルに流されて食べるのではなく、その地方で採れる食材を探し、手づくりで楽しみながら食事をして、生活を楽しもうという運動です。地域再発見から地域の活性にもつながることで、地方分権を推進している向きにも歓迎されているのです。
小欄「自然食のすすめ」は、昭和37年頃より「玄米自然食運動」を提唱しながら「身土不二の原理」を訴えつづけてきました。本誌としては日本の食養界の第一人者である沼田勇医博(大仁病院院長・日本綜合医学会永世会長)の教えにあります。そこで「身土不二」について、沼田医博の著書『病は食から』その原理を見てみましょう。
「石塚左玄の食養論の基礎に『身土不二』の原理があり『郷に入っては郷にしたがえ』『風土・気候・地形によって食物も異なり、生活も異なるのであるから、みだりに他国の食習慣をまねたり、舶来の珍味を食べてはいけない』芋食するところ、魚食するところ、木食するところ、地方により国によりさまざまであるがその土地、その地方に先祖代々伝わってきた伝統的食生活には、それぞれ意味があるのだから、その土地にいったら、その土地の食生活を学ぶべきである」
「石塚左玄がこうした食養哲学ともいうべき食養論を世に出したのは、明治29年、左玄が40歳の時に発行された
『化学的食養長寿論』にある」と、石塚左玄の食養論を継承する沼田勇先生は述べています。
時代は変わって、「GI・ダイエット」や「スローフード」とカタカナ言葉が流行りますが、考え方の基本には、「身土不二」にみる「食養」がベースになっているのです。生活習慣病を恐れる現代人に対しては、穀物(ウドン、ソバ、玄米が良い)、魚、海藻、野菜、豆類を基本とした調理品を毎食バランスよく食べることを提唱しています。加えて住んでいる地域の食文化を見直す(身土不二の原理)ことですから、まさに私たちが言いつづけてきた「自然食のすすめ」につながるのです。
●医療ミス数の格差に大差!?
人の命は何ものに替えがたいことは十分に承知しながらも、健康保険組合連合会による1人の患者の「超高額医療費」には驚かされます。健保連の発表によると、2001年度に支払われた患者1人当たりの医療費が、1千万円を超えたのは、前年より8件増えて106件となり、500万円を超えたケースは2394件で前年より55件増えています。
なかでも超高額医療費の支払ケースは、急性すい壊死で入院した22歳の男性患者(死亡)の2256万円で過去最高額です。高度医療技術による最新の機器を駆使して、患者の命を助けるために医療チームは働いたのでしょうが、医療技術水準のレベルは十分だった、しかし患者は死んだという構図になります。
そうした中、大学病院など全国82の特定機能病院で、00年4月から今年2月までの約2年間に起きた医療事故が計1万5千件に上り、「重篤な事例」387件。朝日新聞4月23日によると、報告された医療事故件数が最多だったのが北里大学病院の2926件(他2病院)。ところが旭川医科大病院と浜松医科大病院が医療事故ゼロと報告しています。この数字の格差は何を意味しているのでしょうか。
医療事故につながる「ニアミス」件数は18万6529件(一部事故含む)。最多は大阪市立大病院の9197件。5千件以上が7病院。最小は288件の日本大学板橋病院、慶応大学病院は483件と報告されています。
医療事故やニアミスが本当にゼロとすれば超優良病院であり、ひょっとしたら、そこに入院したら必ず生還できる保証があると、錯覚しがちになります。はたしてそれで良いのでしょうか。
新聞などの報道によれば、「医療事故」のない日がないくらいです。過去の医療事故に対する裁判などによる損害賠償訴訟は、後を絶ちません。
医事評論家の水野肇氏は毎日新聞で(4月21日)「なぜ医療ミスが繰り返されるのか」の問いに次のように答えています。「日本の病院は自動車工場のようなオートメーション方式を導入し、合理化を目指しているが、逆ではないか。それにミスの7割を占める薬について、医師も看護婦もあまり知識がない。」と。
寒すぎる現実ではありませんか。
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