健康ファミリー 2001年11月号掲載
●売れればどこにでも売る!
本誌9月号の当欄で「薬害ヤコブの売り抜け商法」と題して、「乾燥ヒト硬膜」 (クロイツフェルト・ヤコブ病<CJD>)に感染した死体のものから作られ、日本
人に移植された問題をとり上げました。
薬害エイズ、薬害ヤコブ病とその危険性が指摘されながら、薬害エイズは「非加熱 製剤」を、ヤコブ病は「乾燥ヒト硬膜」を在庫のある限り売りつづけた結果、多くの
犠牲者を出してきたのです。
このたびの千葉県白井市の酪農家が飼育していた乳牛用(ホルスタイン、雌、5歳) が、狂牛病(牛海綿状脳症)の疑いがある、と農水省が発表したのは9月10日です。
問題の乳牛は、病気が疑われて食肉処理場に運ばれたが、起立不能の状態だったため、 脳組織を調べたところスポンジ状になる狂牛病の特徴があり検査したところ(狂牛病
と疑われる)陽性反応が出た(報道各紙)というものです。正確な判定を期すため、 英国やスイスの研究所へ試料を送ったようです。
さてこの事態に、農水省の発表は「乳牛1頭を焼却処分にした」と言ったが「焼却 は勘違い。肉骨粉に加工されていた」が正しい、と訂正。専門家であるはずの農水省
畜産部長が、「海外で狂牛病の牛が次々と焼却される様子をテレビで見過ぎて」焼却 処分にした、とおそまつ発言。焼却とは、肉骨粉飼料にするため焼却したわけですが、
狂牛病の疑いのある牛を飼料のために処分した、と言えずに発した「焼却」の言葉で す。
狂牛病汚染にさらされた英国をはじめEU諸国では、汚染牛を飼料用の肉骨粉に加 工し、牛や羊に与えて狂牛病が拡大したことの反省から、感染しないといわれた豚や
鶏などすべての家畜飼料への使用が禁止されたのです。
日本では、牛肉骨粉を牛以外の豚や鶏にも与えてもよいことになっており、くだん の乳牛の肉骨粉は堂々と飼料に変身していたわけです。豚や鶏の飼育以外には、こう
した肉骨粉飼料は売られないのが建前です。しかし、英国ではこうした建前の裏で狂 牛病死肉が、牛の飼料にまぜられて売られていた事実から、家畜への全面禁止となっ
たのです。
鶏肉生産者や流通関係の業界団体日本食鳥協会(東京・千代田区)はブロイラー用 飼料に肉骨粉を使用した場合、影響を及ぼさないかどうかの調査を農水省に要望する
(日本経済新聞9月16日)とありますが、なんとも他人ごとのようです。しかも、 ひな鳥などのカルシウム補給を目的に使われているそうで、こうした問題が生じて、
改めて影響調査をするというのですから、飼料会社は売れるだけ売る、生産農家は禁 止されるまで使う、という姿勢に問題があるのです。
9月16日のNHKスペシャル・狂牛病は、新型ヤコブ病の若者の脳は、狂牛病の 牛の脳と同じ。人間への感染を調べて6年後に発症、と男女の若者の姿を映し出して
いました。発症すれば病気を治す手立てはないのが新型ヤコブ病です。研究者の一人 は「もし、傲慢で貪欲な人間がいなかったら、この病気はなかった」と言い放ってい
ますが、筆者もまったくその通りだと思います。
それを裏付けるように、狂牛病死肉や疑いのある病死肉、クズ肉を処分する方法と して、肉骨粉を製造し英国内で販売禁止になったとたん、輸出量を増やしていたので
す。
飼料メーカーは、「買ってくれるならどの国でも売ってきた」と言うのですから、 こうした姿勢もまた、病牛病汚染を拡げた元凶なのです。
●猛毒農薬が輸入野菜に変身
◎
薬害エイズ、薬害ヤコブ、病死牛肉骨粉の製薬メーカーや飼料メーカーの姿勢を裏 付ける事件が、国内販売中止の農薬メーカーの姿勢で明るみに出されました。
猛毒のダイオキシン類を含むことが判明した農薬「PCNB(ペンタクロロニトロ ベンゼン)製造元・大手化学メーカー・三井化学」が、国内ではダイオキシン問題が
やかましくなって、販売中止にした1997年以来、ダイオキシン入り農薬を海外向 けに輸出していたというものです。(読売新聞8月24日)
それによるとPCNBは、ハクサイなどの野菜に発生する根こぶ病対策に使われる 土壌殺菌剤で、主要成分のPCNBは三井化学が製造し、数社の農薬製造メーカーが、
他の成分を混ぜ「ペンタゲン」などの商品名で販売されていた、と報じます。
メーカーの三井化学では、国内販売を中止した1997年以降、99年までの2年 半、ダイオキシンの危険性は知りつつも(相手国の)「社会的な関心が今ほど高くな
かったころのことであり、やむを得なかった」(広報室)と話しています。(カッコ 内の相手国と挿入したのは筆者)
これほど人を馬鹿にした話はありません。国内ではダイオキシン類を含む農薬を売 り切れないと判断して販売中止に踏み切り、在庫処分のため、他国のダイオキシン類
の関心が低い国へ輸出していた、ということになるわけです。悪徳商社としては、そ うした農薬を海外で使わせ、野菜の姿に変えて日本にダイオキシン入り野菜を輸入し、
すでに市場に流通していたと考えると、空恐ろしいことです。
こうした話はダイオキシン入り農薬を売り抜けようとした三井化学だけの話ではあ りません。DDTやBHC、有機塩素化合物の農薬が人体に対して危険だとして、日
本での製造販売・使用が禁止された以降、中国や東南アジアへ大量に売りさばかれた 事実もあります。英国の狂牛病死の肉骨粉入り飼料業者と同じく、「買ってくれれば
どこにでも売る」というのが、日本のメーカーの本質的な姿勢なのです。そこには生 産物に対する人への安全配慮など微塵も感じられないのが実情です。
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